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    春のオムニバス

    • 2010.03.18 Thursday
    • 16:18
     
     「元田っち!」
    「いつも言ってるだろ?その呼び方はやーめーろ!」
    「きゃー怖い!!」
    こんな他愛のない僕たちの会話もあと2日。
    ああ、こう思うとなんだか月日の流れはとても早く感じる。


    *春のオムニバス

     
     「元田っちさぁ、私が卒業したら焼き肉連れてってくれるの覚えてんの?」
    恭子は心持、明るくなった長い髪の毛を触りながら言った。
    「さぁーね。そんな約束覚えてないよ。」
    元田は卒業式の資料をホッチキスで一つ一つ丁寧に止めながら答えた。
    「そんなこと言ってる暇あったら、体育館行けよ。次の時間は卒業式の練習だろ?」
    「えーだって元田っちが約束覚えてないから悪いんだよ!」
    「分かった分かった、また考えとくから。」
    すると恭子はやったーと大きなガッツポーズを見せて
    クラスの友達に駆け寄るようにして、体育館へと向かって行った。
    元田の手にはまたひとつ、ぱちん、ぱちんと資料が出来上がっていく。


     元田も自分の作業が終わり、体育館へと向かった。
    少し堅苦しい雰囲気が漂いながら、体育館は桜が舞いそうなほどの暖かさだ。
    丁度、3年生たちは校歌を歌う練習をしていた。
    声が小さい!と怒る教師の薄い髪が風で揺れて、皆くすくすと笑っている。
    恭子は大きなグランドピアノの前にちょこんと座っていて
    細い体、全部で校歌の伴奏を演奏していた。
    なんだか、3年前に初めてみた姿とは比べ物にならないほど、
    恭子は綺麗になっていた。
     
     元田は懐かしむように、それをただぼーっと眺めていると
    いつの間にか卒業式練習は終わり、生徒たちは続々と体育館の外に出て行った。
    「元田っち!来てたの?」
    こうやって面と向かって話すと、彼女はまだ子供っぽい。
    「仕事終わったからね。あのホッチキスのやつ。」
    「そっか。お疲れ様!」
    恭子は笑った。この笑顔は晴れやかと表現するのが1番ぴったりだと思った。
    「ねぇ、元田っち。私がなんで教育学部行くか知ってる?」
    「そりゃ教師になりたいからだろ?」
    「まぁ、それもあるんだけど、何よりね、元田っちと一緒に働きたいんだー私。」
    恭子のスカートが少し揺れた。
    元田には黒いスカートが少しだけピンクに見えた。
    緑のにおい。でも波の音も聞こえる。
    「へぇ、そうなんだ。ま、勉強もっと頑張らないと教師になれないぞ。」
    「分かってるよ!でも教師になるまで、もし、これから10年かかったとしても
     元田っちはまだ45だから待っててくれるよね?」
    「もちろん。僕はいつまでも待つさ。」
    元田は恭子に優しい笑みを向けた。
    つられて恭子も優しく笑った。

     ああ、こんな日々もあと2日。
    元田は職員室の机で頬杖をついて座っていた。
    周りの人たちはがやがやと五月蝿く、なんだか落ち着きがない。
    3年生の女子たちが、卒業アルバムを抱えて
    教師たちに寄せ書きをしてもらおうと、職員室を歩きまわっている。
    こんな光景を、もう何度みたことだろう。
    このざわつきも、この暖かさも、このにおいも、すべて
    毎年、同じではないか。とても慣れているではないか。
    元田は職員室の天井を見つめた。
    そうでもしないと、涙がこぼれおちてしまうような気がした。

    ***
     
     胸に花飾りをつけた生徒たちが体育館に入場してくる。
    なかなか鳴りやまない拍手。
    卒業証書をもらう生徒ひとりひとりが
    誇らしい顔をしていて、なんだか嬉しい。
    こんなときでないと、人は思い出を紡げない。
    元田は丁寧に、ひとつずつ、いろいろな日々を紡いでいった。
    隣にいる、女の教師たちは涙を流している。
     式自体はあっという間に終わり、担任を持っていない元田は
    体育館の椅子を片付けたあと、職員室に帰った。
    元田の机の上にも、生徒からの手紙や、花束が置かれていた。
    卒業生たちの、最後のホームルームも終ったらしく
    見送りをしようと、ほとんどの教師が職員室から出て行った。
    元田は、また、机に頬杖をついて座っていた。

     後ろから、肩を叩かれたように感じて、振り向くとそこには恭子が立っていた。
    「何してんの?」
    「麗らかな風が、涙を誘ってるんだよ。」
    「さすが、国語の教師!詩みたい。」
    恭子の目は少し赤かった。それを見て、余計に泣きそうになった。
    元田は、恭子の頭をそっと撫でた。
    「麗しき 風と生徒の 涙かな」
    「それ、俳句ですか?」
    「まぁ、そんなとこかな。」
    また少し、涙目になってきている恭子に
    元田は笑って見せた。
    「待ってるよ。10年先でも、20年先でも。お互いそれまでに成長して会おう。楽しみにしてる。」
    恭子は大きく頷いて涙を流した。
    それは、もう、きらきらと輝いていた。
    「ありがとうございます、元田先生。」

    ***

     ああ、あんな約束をしてしまっては死んでも教師はやめられない。
    次、会うときは、ちゃんと同僚として付き合っていけるようにしよう。
    いつまでも個人的な感情に流されてしまってはいけない。自分自身も成長しなければ。
    彼女がどんなに女らしく、美しく、そして輝いた人間になっていったとしても
    教師という目で、彼女を見つめよう。
    それがお互いの最善策。

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